Fukushima Nuclear Disaster
福島原子力災害を経た原子力のあり方
2016.3.23
「福島事故」という言葉には軽い響があり、福島で実際に起きたことの理解を妨げる働きがある。事態を正しく伝える言葉は、「福島原子力災害」である。
事故から災害へ
2011年3月11日、M9.0の巨大地震が福島第一原子力発電所を襲った。事態は以下のように進展した。
図1 在りし日の福島第一原子力発電所 (東電のHPより転載) |
@『事故』
地震の影響で外部からの電力供給が途絶え、停電となった。3機の原子炉(1号機、2号機、3号機)の炉心を正常な手順で冷却することができなくなった。正常な運転手順から外れた事態は事故である。
A『過酷事故』
冷却水を十分に供給することができず、炉内圧力を下げるベントもできなかったため、炉心が溶融(メルトダウン)する事態になった。過酷事故とは、核分裂反応を正常に制御できない事態、核燃料の冷却が不可能になる事態、炉心溶融などを指す。
B『原子力災害』
水素爆発が相次ぎ、原子炉から大量の放射性物質が放出された。その結果、10万人を超える人々が避難生活を余儀なくされた。5年を経過した2016年3月でも多くの人が故郷に帰還することができず、帰還を諦め移住した人も多い。放射性物質による汚染は福島県を越えて拡がり、首都圏でも局所的に汚染される事態が発生した。
要するに、社会生活に大きな被害や影響が発生した。
福島で起きた深刻な事態に対して、現在でも「福島事故」という言葉が新聞、TVなどのメディアで広く用いられている。しかし、「福島事故」という表現は福島第一原子力発電所で起きた事態の重大さを見失わせる働きがある。「事故」は事態を矮小化した表現である。
事故Wikipediaによれば、「事故とは予期していなかったのに、人のからだが傷ついたり生命が失われたり、あるいは物が損傷したり財産に被害が発生するような出来事である」と説明されている。
事故は主に人為的な原因で生ずるもので、被害は限定された人々に及ぶものと考えてよい。
災害Wikipediaを見ると、「災害とは、自然現象や人為的な原因によって、人命や社会生活に被害が生じる事態を指す」と説明されている。
要するに、多くの人々に被害が及び、平常な社会生活を送ることができなくなる事態であり、福島で実際に起きた事態に当てはまる。
英文ではFukushima nuclear disasterあるいはFukushima disasterと記される。「事故 accident」が使用されることもあるけれども。「disaster」の和訳は「災害」である。
「原子力災害」はちゃんと法律で使用されている。それは、「原子力災害対策特別措置法」であり、1999年9月30日に起きた東海村JCO臨界事故を契機として制定された。この法律の第2条第1項で原子力災害は「原子力緊急事態により国民の生命、人体又は財産に生ずる被害をいう」と規定されている。
事態を矮小化する表現例として「炉心損傷」がある。2011年3月15日までに福島第一原子力発電所の3機の原子炉の炉心は溶融(メルトダウン)していた。それにも関わらず、東京電力は2011年5月まで、本来ならば「炉心溶融」と言うべき事態を「炉心損傷」と表現していた。